
2011/03/24/Thu
PARTY2 2 砂漠にヘンドリックス
バーボン入りのコーヒーを啜り、
たき火で炙ったポークアンドビーンズの缶詰めを静かに掻き回す。
闇に揺れる小さな炎―――たき火の明かりが砂漠の夜を、尚更に暗くする。
そして気づくのは、目の前に広がる闇の余りの大きさ。
そう、ここは何処でもない何処か。そして俺は、誰でもない誰か。
俺は迷路の行き止まりで、闇を見つめる。だが何故に、俺はこれ程までに穏やかなのか。
「レイ、俺達は本当にロスに行こうとしていたのか?」
「どういう意味だ?」
「確かに俺たちは、ロスに向かってシアトルを出た。
だが、なぜロスに。本当は何処でも良かったんじゃないのか?
俺達の目的地はロスなんかじゃなく、
迷路の出口を捜しているんじゃないのか。
少なくとも俺自身は、そんな気がする」
レイは黙って小枝をたき火に放り込んだ。
小枝は燻り、そして一気に炎を上げた。
彼はその炎を見つめ、バーボン入りのコーヒーで何かを飲み下した。
「そう、確かに何時も、迷路でもがいてた。今日みたいに」
「お互い、道に迷うのは慣れているわけか」
「出口を見つけたかと思って進むが、気付いた時には、また迷っている」
「まるで入り口はあっても、出口のない回転扉だ」
「出口ない回転扉?」
「ああ、ハムスターみたいに中で走り続けて、そして何処へも抜けられない」
「でも、迷わなきゃ出口は見つからない。違うか、ミゲル?」
「前を見ることに囚われ過ぎてるんじゃないかってね。
結果、回し車を走っていることさえ、気がつかない。
立ち止って横を向いたら、そこには別な世界が。
ハイランドファームのバカ騒ぎで、そんな気がしたんだ」
「止まって、横を見る?」
「そうさ、横を見るんだ。
イエローホースの事を思い出してみろ、レイ。
完全に常識を越えた、彼の驚きの正面突破」
「あれは確かに驚きだった。
しかし、それと俺の迷路とにどんな関係があるんだ」
「俺は、アンタの迷路がどんなものか知らない。
だが、出口は意外な所に。例えば横とか、直ぐ後ろとかにあるんじゃないかと・・・」
レイは答える代わりに、俺のティンカップにバーボンを注いだ。
そしてこの砂漠の何処かに住むという男、ケニー・ミルトンについて話し始めた。
ケニー・ミルトン―――彼は、レイが生まれる前にベトナムで死んだ父親の戦友だった男。
そしてジャングルの戦闘で倒れたレイの父親の死を看取り、
レイの母親に彼の最後の言葉を伝えに来た男だった。
それから十数年、毎年クリスマスには彼からのプレゼントがレイに届いていた。
しかしある年からそのプレゼントが届かなくなり、それ以来音信不通となっていた。
「五年ほど前、彼から手紙が届いた」
「それは驚いたろう、レイ」
「ああ、プレゼントが届かなくなってから、十五年も経っていた。
そして手紙と一緒に地図が入っていて、気が向いたら何時でも尋ねて来いとのことだった」
「それが何で今、彼に会う気になったんだ?」
「それは・・・」レイが言葉を止めた。
そして、
「たぶん・・・。ミゲル、以前見せたポストカード、
モナコの古いポストカードを覚えているか?
あのポストカードの宛先が分かるんじゃないかと思ってさ。
あのポストカードは、
俺が誕生をベトナムで戦っていたオヤジに知らせるために母親が持っていた。
だが俺が生まれた時、あのポストカードは宛先を失くしていたんだ」
「それじゃ、レイ。アンタは、あのポストカードの宛先が無いことを知りながら、
それでも宛先にこだわっているのか」
「ああ、そうだ」
「なんてこった! さすがは元、精神科医。言ってることが、意味不明だ。
それこそ回し車を走るハムスターだろうが・・・、レイ」
その時、深い海の静けさに沈んでいた砂漠の夜に突如、大音響。
ジミ・ヘンドリックスがウッドストックで演奏したアメリカ国家、『星条旗』が響き渡った。
そして大量の照明弾が打ち上がり、それに続いて闇からの機銃掃射。
俺達、俺とレイは近くのブッシュに頭から突っ込んだ。
「レイ、マッシュルームを入れたのか!」
「入れてない! マジの現実だ!」
〈INDOプロフィール〉
1954年7月、北海道生まれ。東京のデザイン専門学校を卒業後、石川県金沢でバンド活動。1980年、25歳で日本を出国、ギリシャを拠点にテキヤなどで資金を作りながらアフリカ、北米、中米の長期旅行。1985年、再びギリシャに戻り不良外人にしてストリートミュージシャン、フルートを吹きながら西ヨーロッパを回る。1993年、拠点をオランダに移し、ストリートミュージシャンとして生活しながら短編小説を書き始める。1997年、42歳で日本に帰国し十年ほど鉄工所勤務。その後、小説に集中しようと退職。
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